メッセージ

母親として、放射線の専門家として

福島第一原子力発電所事故が発生した際、福島県内をはじめ、関東一円は、まさにパニックでした。放射線に関する情報がネット上で飛び交い、その中には間違った情報がたくさんありました。特に小さなお子さんをもつお母さんや妊娠中の方には、正しい情報が何なのかわからないまま、極端に放射線を避けたり、お子さんたちを関西や九州まで避難させたりする方もいらっしゃいました。放射線について十分な知識がない中で、おなかを痛めて産んだお子さんを少しでもリスクから遠ざけたいと思われる気持ちは、同じ母親としてよく分かります。

その一方で、私は、原子力や放射線についての研究者の一人として、正しい情報をしっかりと発信していく必要があると強く思いました。現在も、福島県を中心に放射線教育や支援活動に取り組んでいますが、まだまだ緒に就いたばかりです。今後も、「何ができるか」を常に考え、地道に情報を発信していきたいと思っています。

放射線は少しでも怖い?まずは「量」を知って

皆さんの中には、放射線は目に見えず、においもないために、「放射線は怖い」とか、「放射線を浴びれば必ずがんになる」と不安に思う方も多いと思います。確かに、一度に大量の放射線を浴びれば、がんになる確率が上がることはわかっていますが、100ミリシーベルト以下では、放射線以外の生活習慣などの影響で自然発生するがんとの見分けがつきません。
放射線は「特別なもの」と思われがちですが、私たちが生活している自然界には、放射線が「普通にある」のです。宇宙からも飛んできていますし、呼吸や食事によって体内に放射性物質を取り込んでいます。そうして、私たちは、自然界から少しずつ体に放射線を受けていて、例えば、日本では、1年間に平均で2.1ミリシーベルトを被ばくしています。

その他にも医療行為によってほとんどの人が人工放射線も受けています。例えば、胸のX線集団検診は1回あたり0.06ミリシーベルト。全身CTスキャンなどでは、私たちが1年間に受ける自然放射線と同じか、それ以上の放射線を受けているのです。まずは、放射線は身近なものなのだ、という認識を持っていただきたいと思っています。

「正しく知る」ことが大切

私たちは、地球が誕生した時から存在する放射線と共存してきました。私は、正しい知識に基づいて、放射線をきちんと使い、きちんと管理し、うまく放射線と付き合っていくことが最も大切だと考えています。言い換えれば、放射線を「正しく知る」ことの大切さを、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

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